1. 災害エスノグラフィーの目的
  2. 災害対応における暗黙知の重要性
  3. 災害エスノグラフィーの調査方法
  4. 調査における留意点
  5. 災害エスノグラフィーの調査実例
 
 
 
 
 

5.災害エスノグラフィーの調査実例

以上のような方法で、阪神淡路大震災以降、調査を進めてきました。最初にやったのは西宮プロジェクトです。西宮市をホームベースとして、32被災世帯のエスノグラフィ調査と災害対応従事者への調査を行いました。被災世帯がなぜ32かというと、できればいろいろなケースの中から世帯が何を体験してきたのかという災害プロセスを明らかにしたいと思ったからです。32世帯の選出の前には、1万世帯くらいの事前ヒアリング調査をしました。その中からこちらの趣旨に同意してもらったうえでいろいろと残すべきケースを設定して、非常に細かい調査をしました。災害対応従事者については、西宮市の緊急対応、応急対応、復興対応という3つのフェーズの中から、消防、急性期の医療、市の災害対策本部、仕事中に被災した方たちとその方たちが地域に帰ったときの互助、応急対応期としては保健医療の問題、避難所や学校教育の問題、水の問題、ボランティアの問題、復興再建期としては金融・経済、商店街の再建、弱者や福祉対応という11のトピックを選びました。

例えば、水というトピックではどういう方たちに来てもらいグループディスカッションを実施したかというと、本部にいた方、現場で市民対応にあたった方、技術屋さんと、いろいろな立場の市の水道局の方、それからホテル、銭湯、病院。ユーザー側と供給側として水というトピックにかかわる方たち、そして意思決定をする立場にあった方たちに一堂に会してもらい、数時間にわたってディスカッションを行いました。

そのあと、神戸市の中央区、兵庫区・長田区という2つのプロジェクトをやりました。神戸市中央区は、全国規模の企業の神戸支店や企業の本社がある、業務中枢地区です。兵庫・長田区は、神戸市の中でも非常に被害が大きかったところです。そういう中で組織や企業のトップの方たちがどういう体験をしてきたのか、その記録を残すということで行いました。こういう方たちに対するインタビュー調査でエスノグラフィを残すということをやってきました。

現在は場所を東京に移し、永田町プロジェクトをやっています。当時、永田町であの震災を見ていた人、そしてあの震災に対して高度な判断や意思決定をした方へのエスノグラフィ調査を行いました。当然、中央区・兵庫区プロジェクトでは、前市長、前知事にも調査をさせていただいています。これは今でも継続中です。

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