1. 災害エスノグラフィーの目的
  2. 災害対応における暗黙知の重要性
  3. 災害エスノグラフィーの調査方法
  4. 調査における留意点
  5. 災害エスノグラフィーの調査実例
 
 
 
 
 

4.調査における留意点

災害エスノグラフィーの調査において重要になるのは対象者の選定です。だれの話にも必ず残すべき暗黙知がありますが、効率よく普遍性の高い、残すべき重要性の高いものを取り出す必要があります。ですから対象者の選定も、こういう項目についてエスノグラフィー調査をしたいときはこの人から当時の話を聞き出すことが有効だということを事前に調査します。あるいは同じ組織の中でも、例えば消防局の中でも、救急をやっていた人、本部でずっと司令台の前に座っていた人、現場で市民に対応した人、あるいは消防局長と、それぞれ全く違った立場で消防という業務をしています。そういう場合は、同じ業務を担っていた人たちでも立場が違った方たちに一堂に集まってもらい、それぞれがどういう体験をしていたのか、話し合ってもらいます。案外、自分がやっていたこと以外はほとんど知らなかったというケースが多々あります。グループディスカッションをすることで、初めて皆さんが自分たちの体験を再共有化し、自分の経験を全体の業務の中のどこに位置づければいいかということが明確になってきます。

また、インタビューやディスカッションをするにあたり、我々は構造化されないインタビューをやろうと心がけています。つまり、具体的には一切質問項目を設けないという方法です。事前にこういう調査をさせてほしいというと、必ず相手方から事前に質問項目を教えてくださいと言われますが、時系列に沿って皆さんが何を体験し、そのとき何を感じて、何を決めて、何を行ったのか、その結果どういうことが起きたのか、それをただお聞きしたいだけですとお話しします。我々が予断や偏見を一切持たない、まっさらな状態で相手の知識を全部出していただくことをします。

だれに話を聞くかということと、こちらと相手の信頼関係がそこできちんと築けて、相手が素直に体験してきたことを淡々と話せる関係を作っていくことが、ここではかなり大きく影響します。

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